「すみませんすみませんすみません」

 帰りの車の中の三人は、まったくもって異質な状態だった。

 サヤは平謝りモードだし、直樹は魂が抜けかかっている。

 しょうがなくセルシオを運転している孝輔は、おかしくてたまらなかった。

 兄のあんな顔を見たのは、生まれて初めてだ。

 デジタルなはずの仕事を、突然アナログに変換されてしまった。

 完全に出し抜かれたのである。

 呆然とした直樹が、うつろな目でマザーグースの詩を呟いているような気がするが、きっと空耳だろう。

 パフォーマンスに命をかけている直樹には、つらい展開だったに違いない。

 おいしい部分は、すべてサヤがかっさらったのだから。

「もういいって…向こうも納得したし、金も入る」

 もともと削除なんて、概念そのものを開発するのが大変だっただけで、実際の作業と言えば、ボタン一つでスタート、ボタン一つでストップ。
 それくらいのものなのだ。

 大して面白い仕事ではない。

「すみません…」

 それでも、後部座席のサヤは小さくなっていく。

 孝輔にしてみれば、今回は珍しいものが見られた。

 兄のいまの状態を除いても、だ。

 兄は、ヤイバという親友がいたから知っているかもしれないが、孝輔自身はまともな除霊風景はほとんど知らなかった。

 しかも、今回のケースでは、霊がそのまま生き残り、なおかつ依頼主を納得させたのである。

 孝輔にも直樹にも、出来ない手法だ。

 まさか、あんな逆転ホームランが待っているとは。

 ルームミラーごしにサヤを捕まえると、すっかりしょぼくれていた。