涼しい爽やかな風。


空を仰げば、澄み渡った青が見渡すかぎり広がっている。



「……行ってきます」



私は小声で呟いて、家を後にした。


高級住宅街を俯き加減に早足で歩き、ビルの間をくぐり抜けて、そして到着したのは駅だ。


カードを翳して改札口を通って階段を降りプラットフォームに行けば、丁度電車が滑り込んで来る。


朝の混み合う前の静かな電車へと乗車し、一車両目の右側の二つ目の長椅子の一番手前に座った。


ここが私の定位置。


いつもの場所だ。


――電車が走り出す。



心地好いリズムを感じながら、本を開いた。


今日の本は推理物。因みにドイツ語。


物語に引き込まれていく。




「次は加賀谷~、加賀谷です」




ハッと本から目を上げた。気が付けば目的地は目前。


いそいそと本を仕舞い、立ち上がった。