漆黒の瞳

 



「……抱き上げてもいいか」


このままここにいるのは危険だ。それはよく理解している。だが、だからといって、男に触れられたくはない。

恩人であろうとも、いくら綺麗な顔立ちをしていようとも、私は男に触られたくはないのだ。ましてや、あったばかりの、信用できるかどうか全くわからない、若い男になど。


「…………結構ですので、お気になさらず立ち去ってください」


我ながら失礼な物言いだと思う。助けてもらい気遣ってもらった挙げ句、それをきつい言葉で断るなど。せめて立てるようになるまでの少しの間、ここにいてもらうことすら、私にはできない。私はこの男には甘えられない。──私には、人に甘える価値などないのだから。


男は黙ったまま私を見下ろし、それから不意に壁に寄りかかった。もしかして、このまま暫くここにいるつもりなのだろうか。

男は目をそらし、ポケットに手を突っ込む。何がしたいのか全く読めない男。あまりじろじろと見るのは失礼だろうと目を伏せる。


──この男、何者なのだろう。一撃であの男を倒した、漆黒の男。髪や瞳の色だけではない。着ているものも黒一色で、男のつける唯一の装飾具である左耳のピアスのみが青色だ。



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