春──。

 桜が淡い桃色の花を咲かせ、その花弁は風に散らされて地面に舞い落ちる。僅かに雲のかかった青い空との色の対比が綺麗だ。


 前を見据えて、凛と背筋を伸ばし、ゆっくりと歩を進める。

 校門の桜の木の下から、歩んできた道のりを振り返った。
 高校の敷地の真ん中に立つ校舎、誰もいないグランドは妙に広く感じられ、騒がしいはずの体育館と校舎の間にある芝生は閑散としている。



「──さようなら。……ありがとうございました」



 世話になった学び舎に別れと感謝を告げ、私は思い出のつまったこの地に背を向けた。


 ──強い風が吹いた。


 桜の花びらが舞い上がり、そして踊るように落ちてくる。春の甘い香がした。