この感情が殺意ではなく、悲しみだということは分かっていたけど、私は知らないふりをした。


私が1番に願ったのは





スラムを出ることではなかった。


その願いは母は知らないだろう。
母のただ一言で私は喜んで命を捧げようとしていたことを知るよしもないだろう。



「……許さないッ!!」


私はそう叫び、さっきまで開かなかった右目が開いた。赤い涙と共に。


「緋い逆十字の瞳!!……そう、それよ!それがみたかったのよ雪緋!!」


それが最期に聞いた母の言葉だった。


何故それがそんなにも嬉しかったのか。

私が母を守るとでも思ったのか。

それとも研究者としての性なのか、私にはさっぱりわからなかった。

けれど、私はこの右目のことを聞かなかったことを後で後悔するなんて夢にも思わなかった。