ウー‐‐ウー‐


今だに鳴り続けるサイレンを背後に私は人がいなさそうな裏路地を歩いていた。


――ば、化け物ッ!


その言葉は意外にも深く私の心に刺さっている。


分かっていたはずなのに。


この左目の紅い逆十字と左頬の逆十字の大きな傷。


こんな醜い顔でひっそり暮らすのではなく、怪盗として皆の前に晒す。


そのときに覚悟したはずなのに。


普通の生活も女としての生き方も幸せも捨てたはずなのに。



ドンッ


考えごとをしていると、誰かとぶつかって尻餅をついた。


「ッ!!」


「あ…すみません、大丈夫ですか?」


声が低いことから男の人だけど、歳は対して変わらないことだろうと私は分析した。

男の人は座り込んでしまった私に手を差し延べてくれたが私は顔があげることができなかった。


今の格好はブラッディクロスの服装で、変装していないからだ。


普段、ターゲットの下見や街を歩くときは顔の傷が見えないようにウィッグを被っている。


…が、いまさっき終えてばかりで変装できるはずもない。