雨の降る中、彼はいた。
傘もささず、うずくまっていた。
彼の髪から雨が滴り落ち、その雨は彼の下に咲いている小さな花に落ちた。
そして、彼はゆっくりと雨を降らせる灰色の空を見上げた。
「なに?」
彼は空を見上げたまま冷たく言い放った。
「ぇ…っと、寒くないかなって」
彼はふっと笑って私の方を見た。
その笑顔は眩しくて
とても輝いているように見えた。
「じゃあ、あたためてよ」
彼の笑顔は消えていた。
彼の目から、1筋の涙がこぼれた。
「俺さ、夢があるんだ」
ココアを持ち、手を温めながら彼はつぶやいた。
「夢?」
「そ、夢。俺さぁ、カメラマンになりたいんだ」
彼はココアを机に置いて、手で四角を作って
カシャっと言った。
「でも今日、変な奴に絡まれて、カメラが…」
そぅ言って彼は机に頭を置いた。
机に涙がこぼれた。
「また買えないの?」
「カメラはカメラマンの命だ!俺は、それを…」
私はそっと彼の頭を机から離し、自分の頭にくっつけた。
「あなたは悪くない。カメラも、あなたに使ってもらって
幸せだったんじゃないかな。あなたは悪くないよ」
彼は私の目を見つめた。
そして、ゆっくりと唇を近づけた…。
「いきなりごめんな?」
いつの間にか夜の10時をまわっていた。
「ううん。いつでも来てね」
彼は笑った。
私の好きな、輝く笑顔で…