食堂は、これでもかと文句を言いたくなるほど重い空気に満たされていた。
シェフ、七瀬幸三がみんなに茶を出していたが、それに手をつけようとする人間はいない。
「失礼、八部大翔さんはいらっしゃいますか」
十和田は少し大きめな声で問い掛けた。
客とスタッフ達は互いに顔を見合わせる。
「あの」
少女がひとり、立ち上がり、十和田の近くまで駆け寄ってきた。
湊である。
「八部さんは、私の兄と一緒に一条先生のお部屋に行きましたよ」
「ほう、どうなされたのです」
「事件が起きて、彼女のお兄さんがすぐに全員を食堂に集めたのですが、一条先生だけおみえにならないんです」
答えたのは五家宝凛。
十和田はうーんと唸って手袋をはめた手で顎を擦った。
「君、ちょっと見てきてくれるか」
「ハッ!」
十和田の背後にいた新人刑事は、堅苦しく敬礼すると全速力で食堂を出ていった。


