「荷物」
「サンキュー」
「…………」
「何?」
意外にも紳士で、カバンを出すと、
受け取ってくれた。
だけど受け取ったまま、
遥はカバンを凝視していた。
「遥?」
「荷物、少なくねぇか?」
「日焼け止めとタオル数枚と帽子と、レジャーシートだけだからな。あと、財布と携帯」
レジャーシートは、
砂浜に座るために持ってきた。
黒竜のヤツらがそこまで気が回るとは、
到底思えなかったし。
(さりげなく失礼だろ)
「は?海行くのに、水着入ってねえの?」
怪訝そうに聞いてきた。
何か、だいぶしゃべるようになったな…。
つーか、水着かぁ…。
「持ってないし、必要ねぇ。海、入らねぇし」
「泳げねぇのか?」
「泳げる。ただ、入りたくない」
背中に墨が入ってんだよ。
だから、脱げないだけだ。
それに…海は、嫌でも
“アイツ”を思い出すから。
入りたくない。

