「……俊輔え?」
「………どうかされましたか、お嬢様」
「……………」
え?
なんか…敬語なんだけど…
「俊輔?いつもみたいでいいって」
「そうはいきません。わたしたちは“お嬢様”と“執事”。それ以上でもそれ以下でもないんですから」
にこっと俊輔が笑った。
それが突き放したような笑顔であたしは悲しくなった。
「………なんで?」
「なにがです?」
「……俊輔も、なの?」
「………お嬢様?」
「…俊輔も…離れていくの?」
「………!」
俊輔の目が、見開いたのがわかった。
あたしは頭をふった。
俊輔は“執事”。
あたしは“お嬢様”。
それ以上でもそれ以下でもない。
わかってた。
わかってたはずだったのに―
「………あたし」
あたし、俊輔がすき?
でも、あたしは、玲がすき。
「…あたし…お嬢様と執事の関係が…それ以上にならないの…やだよう…」
いつの間にか涙が流れて、はらはらとあたしは泣いた。
涙で歪む視界で切なくくちびるを噛む、俊輔の姿が見えた。
「………何でそんなこと言うんだよ!」
苦しそうに俊輔は顔を歪めた。
「……俺は!お前が苦しむのをみたくない!だから我慢してたのに…」
「…っ……?……?」
ぽろぽろ流れていく涙。
「…俺に…どうしろって言うんだよ…」
俊輔は立ち上がってあたしを痛いくらいに抱きしめた。
「…俊輔…くるしいよ…」
いままでどれだけ俊輔があたしに気をつけて接してくれていたのか、いまさら気付いた。