智子はベッドに横になったまま、隙間の開いたカーテン越しに、大きな満月を浮かべる夜空を眺めているようだ。

 微かに唇が動き、息を吐き出すような声が漏れ聴こえる。

「あんたがたどこさ、ひごさ、ひごどこさ、くまもとさ、くまもとどこさ、せんばさ……せんばやま……には……」

 弱々しさの拭いきれない声で智子は歌っている。その、聞き覚えのある歌に、穂高は優しい表情で耳を澄ませていた。なかなか、声をかけられないでいる。