「あ、でも智子さんがまだ出てきてない!」 「何だって?」 「大切な物を取りに行くって言って、まだ中に……」 「そんな」 不安げに穂高は家に振りむいた。 既に裏からの火の手が回り、家を焼き始めている。燻るような煙が朦々と上がる。 穂高は、ギュッと唇を噛締めた。 「だったらあずみは早く豊子さんに付いて防空壕へ行け、智子さんは俺が連れてくる」