「……」

 健吾とぶつかりかけた女性が立ち止まり、何かを考える仕草をした。

 都心に流れる川のほとり──憩いの場として綺麗に舗装されたその道路は、この時間には珍しく人通りは少ない。

「!」

 ふと堤防の脇に目をやると、サイフが落ちていた。

 やや眉をひそめて拾い上げる。

 二つ折りのサイフは高級でもなさそうだが、使い込まれている事が窺えるほど茶色い表面はくすんでいた。

 開いて中を物色する──カードが何枚か入っていて、その中の1枚に眉間のしわを深くした。

 そこには、先ほどぶつかりかけた男性の顔がハッキリと写されているではないか。

 彼女は、しばらく考えたあと小さく溜息を吐き、もと来た道を戻っていった。