「どっか、具合でも悪いんですか?」

セミロングの髪の毛を、デッサンするのに邪魔にならない様、ポーニーテールに纏め、少し痩せすぎではないかと思われる心配そうな面持ちを直子に向かって向けていた。

それは、素直に尊敬する師匠に向かって注がれる本気の心配だった。

「――ん、大丈夫よ、何でも無いわ」

直子はぎこちない笑顔を作り、美術室入口付近に有る大きな丸型の時計を見上げ

「さあ、みんな、今日はここまでにしましょう。遅くなってはいけないですからね」

その声を聞いた部員達は筆や木炭を置き、それぞれが片付けの作業に入った。

「じゃぁ、申し訳ないけど、穐本さん、後宜しくね」

直子は穐本に向かってそう言うと穐本は「はい」と短く返事をしてから再び後片付け作業に入ってった。それを確認して直子は教壇を降りてゆっくりと入口に向かって歩いて行く。