『奈良坂、栞から今日のこと聞いてる?』 『今日のことって?』 『やっぱり言わなかったのね、あの子』 菊地の声の調子に、イヤな予感。 『なんの話だ?』 菊地は、詳しく語りだした。 『実は栞、今日、管弦楽部のOBの村上先輩に誘われて、聖慶大を見学に行ってるかもしれないのよ』 『村上って、前に栞につきまとってた?』 『そう、その村上先輩』 3月のコンサート後の控え室で、栞を困らせていた男の顔をぼんやり思い出す。