「分かったよ、辞めないから…大丈夫だよ」
言うと、彼は小さく息を吐いた。
「あと、今日も遅くなりそうで…」
恐る恐る、話題を戻す。
彼はどうせ、『はいはい』と返すんだろう。そんな当たり前だった予想、することさえも忘れていたのに
『…番乗り場に………列車が参ります』
聞こえて来たのは、確実に、駅のホームのアナウンス。
「…龍平、どっか行くの……?」
聞くと、暫く沈黙が走った。
君の「はいはい」が聞こえないのがこんなにも怖いことだったのかと
胸が震えた。
『俺、大阪に戻って実家の手伝いしながら司法試験目指そうと思って』
………どうして。
嘘でしょ、と言いながら、私の足は勝手に家へと向いていた。
仕事の途中なのに……いや
なんで今までこの行動が取れなかったんだろうと悔いた。
「龍平…っなんで……」
『麻子』
プルルルル…と、耳に突くのはホームの音。
『…もう…無理せんくても良いからな』
ばいばい、と。
電車のドアが閉まる音と同時にたった4文字の言葉が聞こえて
二人の電波はプツリと途絶えた。
力無く、私の手を滑り落ちる携帯電話は
彼を引き留めることさえ出来なかった。

