「………………」
唇を離したあと、奏はきょとんと黙り込む。
しかしそんなの束の間で。
奏の方から、もう一度、キスを繰り返した。
「……家行くか。」
「え、奏明日も仕事……」
「休めば良い。」
サラッと言って、彼はあたしのトレンチコートのポケットを手で漁る。
そして、
「これ買えたから、もう十分。」
あたしの左薬指に、電灯よりも月よりも、何よりも輝く指輪をスッとはめた。
「………幸せすぎて泣きそう。」
「おー、泣け泣け。」
「ほんとに泣いたら焦るくせに。」
「……………」
勝った。
ほんとは、薬指を見ている今ニヤニヤする顔を止めるのに必死だよ。
もう当分、いやずっと。
奏が隣にいる限り、泣くことなんてなさそうだ。
「……帰ったらお礼に色々サービスしてもらうから。」
「……ぅえ!?……えーっ!!」
「今夜は寝かさん。」
「ちょおおおお」
ニヤリといたずらな笑顔を見たのは至近距離。
雪が降ってきたのも気付かずに
アパートの階段で、あたし達は長い長いプロローグのキスをした。
もう離さない、離れない:end
「ちょっ亜子玄関カギ開いてる」
「あ」
「うわっ、ベランダ全開ポリバケツ全開!」
「ああ」
「洗濯機の中でしわしわに干からびてんの…もしかしてワイシャツ?」
「あああ」

