それは正しい。
分かってはいるけれど。

急な現実を私に突き付けた彼女と、まだ話す気にはなれなかった。


「虎白の申請書…、契約者…。本当は誰になってるの?」

「それは、嬢ちゃん」

「でも…」

妖術師登録もされてない、
国籍も無い私が、
審査に通る訳が無いじゃない。

しかし、
太磨はこう説明した。

住民登録や国籍を管理する機関と、獣の契約を始めとする妖術師登録関係の機関は別々らしく、長く国機関に関わるババ様が「抜け道」をぬって上手くやったらしい。

だから、
虎白の契約者は、私。


「じゃあ、私の身分証明は?」

と聞くと…。
太磨はいそいそと、荷物から「身分証明書」を出した。

それはババ様が用意した、
「嘘の身分証」だった。

そこに記してあったのは、
妖術師ではない、
一般的な登録内容で…。


「……チグハグじゃないの」

馬鹿ね。
それらを同時に関所の窓口に出したら、不審に思われて当然じゃないの。


「普通なら、身分証明も虎白の申請書もチラッと見せりゃ済む話だったんだ。まさか、ここまで厳重に入国審査されるとは…。」

下調べが足りなかった。
太磨はそう頭を掻いていた。