記憶 ―流星の刻印―



そして、翌日――…。

私は旅に出る、
その唐突な報告をしに、私たちは母さんの眠る湖の畔へとやって来ていた。

薄い朱色の水面、
龍神が眠るという湖。

風が踊る静寂なはずの湖は、
これまでに無い騒がしさに包まれていた。


「――ちょっと、虎白っ!!」

湖畔に響くのは、
私の大きな怒鳴り声。


「いつまで乗っかってるの!?重いじゃないの!!降りてよ!!」

『…イヤだよ~!!怖いもんっ』

虎白は首に絡みつく様に器用に前足を回し、私の肩から降りようとはしなかった。


私の家に来てから、数日。
初めて村の外の空気に触れた虎白は、村人の目に触れる度にビクビクと私の陰に隠れ…、
終いには、
隙を見て私の体によじ登り、肩に掛かる私の長い黒髪に身を隠そうと必死だった。

馬鹿じゃないの?
隠れられるはずないでしょ。

あんたの身体は、白。
黒髪の横に居れば余計目立つ。
しかも、はみ出てる!!

そう何度怒鳴った事か…。


……重いっ。
か弱い乙女に身体を預けるなんて、本当に何なのかしら、この虎っ!!


「…揚羽ちゃん…?」

怒る私に遠慮がちに話し掛けたのは、荷物を抱えた美玲さん。