「…もう何日前になるかね…、村に不穏な空気が流れて滞留しているんだよ。」

「…あら、そうなの?」

蓮はもう黙ったまま。
当てにならない兄貴分だわ。


「不穏な空気はね、この家から出ている…」

「え?嫌ね、ババ様。人の家を不穏だなんて!」

私は必死にしらを切ったのだけど、ババ様は不気味に笑ってこう言った。


「……揚羽、奥にいる虎を連れておいで。もう、いいだろう?…隠しても無駄だよ。」

「――…っ!?」

……虎。
ババ様はそう断定していた。

虎白の姿は、他の村人には見られていないはずなのに…。

まさか本当にバレているとは思わなかったし、ババ様の妖術とやらが本物なんだと、私たちは息を飲んだ。


「…大っぴらにはしたくない…。村人が不安になるからね…」

もう隠す事は諦めた。
でも…、


「――…お願いっ!!虎白を殺さないで!!ババ様!お願い!!」

私は目の前のババ様のシワシワの手を握りしめて、必死に頼み込んでいた。

虎白には何の罪もない。
ただ迷い込んだのが、この場所だったってだけよ!


「…ははは、…殺しゃしないよ…。連れておいで…」

ババ様は顔をくしゃくしゃにして笑っていた。