「…あたしだよ。夜遅くに悪いがね、扉を開けとくれ…」
ガラガラの枯れた声。
その低音に威圧感を受けているのは、何も私たちだけじゃなかった。
ババ様…!
そう無言でワタワタし始めた私たちより前に、誰に追い立てられる訳でもなく、虎白は奥の部屋に逃げ込んでいた。
虎白は、臆病者。
普段も家の外から村人の声がするだけで、ビクビクと部屋の隅に隠れてるわ。
まぁ、やんちゃに外に出たがるよりは助かるけど…、「虎としてどうなのよ」と心配にもなるわね。
私がパタリと奥の部屋の扉を閉めるのと、蓮がババ様を迎え入れたのは、ほぼ同時だった。
外の冷ややかな風が、
家の中にすぅっと流れた。
「…ババ様…、ご用でしたら明日にでもこちらから伺いましたのに…」
蓮がオドオドと顔色を伺う。
ババ様はその腰の曲がった低い目線で、じっと蓮の瞳を見ていた。
「…あまり大っぴらに出来ない話をしに来たからね…」
「……ぇ?」
ババ様は空気を読み取るって、言ってたのは誰よ。
めちゃくちゃ動揺してるじゃないの、ダメな蓮ね!
「――なぁに!?ババ様!秘密のお話かしら?まぁ座ってよ!」
私はそう言って、食卓の椅子を引いて笑った。

