…その数十分後には、真裕は眠ってしまっていた。
妙な男の存在が明らかになったものの…それはとりあえず保留。
そもそも俺達には、あまり深く気にしていられるほどの余裕がなかった。
「もうほんとに…喜んでいいんだか驚いていいんだか怒っていいんだか分かんないわ」
「喜んどきなよ。嬉しいことだ」
「それはそうなんだけどさ!」
納得いかないといった様子でむくれる花梨を、蓮二が軽く諭す。
『も"おねっ、マヒロ"のこど思うと、あだし涙が止まらない"ぃ』
『……だろうな』
アッシュの少し引いた表情も無理はない。
リジュの顔のひっでェことひでェこと。
「……」
ふと楓に目を向けると、なにも言わずにただ、自分の膝に頭を乗せて服の裾をしっかりと握りしめて眠る真裕を見つめ、頭を撫で続けていた。
『マヒロ……本当につらそうだったから…』
『うん…。こんな風に寝てるのも、最近じゃ初めて見るわ』
『もう今にも折れちゃいそうなくらいもろくて儚く見えたけど、やっぱり芯が強いのね。奇跡を起こしちゃったわよ』
「……強くない」
「え?」
ハディがぐっと両手を握りしめて言ったとき、楓が初めて口を開いた。
しかしその目はずっと、真裕に注がれている。
「一つも強くなんかねぇよこいつは…」
まだ喋ることもつらいのか…それとも…。
…分からないが、ともかくとても弱々しい声で楓は語り出した。

