「あたし達! 何も知らないから聞かないで」

「えー! だってじゃあ、一昨日までどこに行ってたの?」

「聞・か・な・い・で。…分かった?❤」

「Σ……は、はい」


「……」

「……」


最初からこうすれば…花梨を投入すればよかったんじゃなかろうか。


「脅しやで? あれもう脅しやで?」


「なんのことだ修平。僕は何も見てない聞いてない」


「あ…そ」


不満そうながらも、取り囲んでいた人々は徐々にまばらになっていった。

それだけ花梨の形相はものすごい威力だということだ。

綺麗な造りしてるだけに、恐ろしい鬼にな…。


「声に出てるのよ全部!!Σわざとでしょ!?」


「…まさか」


肩をすくめながら答え、人の壁のせいで止まっていた足を動かした。

教室に行かないと、授業が始まってしまう。


「まおパパはなんで楓のこと公表しないのかしら。それとなーく流せばいいのに…」


「馬鹿だね君。楓くんはまだ入院しているし、それに…まおちゃんの妊娠のこともある。そして左腕の再起不能……ちょっとややこしいよ」


「そう…だけどさあ。生きてることくらい……ていうかさり気なく馬鹿って!!」


まあ二人の結婚はしばらく前大々的に知れ渡っているし、妊娠については問題ないだろう。

楓が生きているということも…。

ただ彼女は絶対安静。こんなときにマスコミに追われるのはキツいだろうしね。

さらにそうなれば、彼女の左手……いや、“藤峰真裕”の再起不能も広がることになる。

いずれそうなることとはいえ、今はそっとしておくべきだ。


楓もいることだし…大丈夫だろうとは思うけど。

でもやっぱり、他人には想像もつかない苦しみだろうからね…。