P a i n .





…変なやつと会った翌日。

重い足を動かし、学校へ向かう。
みんなが友達と、あるいは配偶者と寄り添いながら楽しげに歩く通学路。

俯きながら歩みを進める。

瑞希は朝練なんだろうなー。

なんて思いながら、イヤフォンを耳につける。
手慣れた操作で、いつも聴く曲をかける。

これで、外の音が気にならない。


その時だった。


ガッ、と、裂けそうな勢いでイヤフォンを外された。

「…?」

痛い右耳をさすりながら振り向く。

「よっ!」

茶髪の、なんというか、犬みたいな。
そんな人なつっこそうな男がニコニコしていた。

話す気にもなれず、取られたイヤフォンの片耳をばっと奪い返し、さっさと歩き出す。

「ご、ごめん!待ってよ涼ちゃん!」

ピタッと、私の足が止まる。

「あのさぁ…」

と、話し始めた時に、僕はゆっくりその体勢を取り始める。

俯いたまま振り向き、左足を後ろに引き、自分より高い男の頬目掛け、右足を振り上げた。
そして、右頬のスレスレで止める。

俯いていた顔はそのままに、低い声で言い放つ。

「僕に、関わるな。」

「…ふっ。」

短くそう言われ、思わずそいつを見る。

ただ笑顔で、いや、上から見るような顔をしていた。

「何がおかしいんだ。」

いっそう苛立ちを覚えた。
大抵の野郎は、この時点でビビるか、逃げるか、呆れてどこかへ行くかしかしなかった。

笑顔の意味が、分からない。
掴めない男は嫌いだというのに。

「こりゃー、琉ちゃんが目ぇつけんのも無理ないや! っはは、面白いね、涼ちゃん。」

「ちゃん付けで、呼ぶな。…用はそれだけ?」

明らかに不機嫌な顔をつくり、早く話を終わらそうと試みる。
…それは、逆効果なようで。

「こんな可愛い子、ほっとけないや!友達になろうよ?」

僕はそれを聞くなり方向転換をして走り出した。
こんなのは御免だ。
何で朝からこんな目に…!

「あ、ちょい待てぇぇぇぇぇぇ!」

「追いかけてくんじゃねーよ!!」

息も絶え絶えに、校門を越え、登校する生徒の波を縫うようにして走って行く。

直線の道では、相手が男なら敵いっこない。こんな複雑な場所なら、なんとかまくことが出来るはず。

最初のうちは後ろから涼ちゃーん、なんていう声が聞こえていたけど、それは聞こえなくなった。

…ふぅ、と、額から流れてきた雫を手で拭う。