次の瞬間、誰かに体を放り投げられてあたしは馬上に無事収まった。


「モタモタするな、トムボーイ!」


狐達が跳ね回って囃し立てる。


チェイサーが馬の脇腹を軽く蹴り、あたし達は車の間を縫うように街を駆け抜けた。


あたし達の横を走る狐にぶつかった男の人がよろめきながら、『風が強くなってきたな』と言うのが聞こえた。

こっちからは何もかもが見えるのに、向こうからはあたし達が見えないんだ。


白魔達が『玻璃の谷』と呼んでいるビル街に近づくにつれて、空から雪が降りだした。


発泡スチロールの粒みたいな雪で、凍った道路の上をコロコロと転がっている。


夜が訪れたビルはライトアップの光の中で、そそり立つ岩山のように見えた。


ああ、ここは確かにコンクリートと鉄とガラスでできた谷だ。


あたしはもう寒さを感じなくなっていたけど、きっとかなり気温が下がっているはず。


「左側の建物の奥を見てみろ」

チェイサーが言った。

「氷狼がいる」