「んじゃ、渡したし、帰るか」
瑛太は門に向かって歩いてく。ゆっくり、ゆっくり。踏みしめて。
門に着いた瑛太はそのままくぐらずに、校舎の方に体を向き直した。
「瑛太?」
突然歩みを止めた瑛太に、あたしはきょとんとしていた。
すると瑛太は、
「ありがとうございました」
と、深々と頭を下げた。
いつも笑いで溢れてた教室。
二人で過ごした裏庭。
こっそり入った屋上とか。
三年間共に過ごした学校に、沢山の感謝を込めて。
あたしも、それに倣った。お世話になった学校だから。
人との別れと同じくらい、淋しいにきまってる。
この景色をしっかりと目に焼き付けておこう。ずっとずっと、忘れないように。
そしてあたしたちは学校をあとにした。
まだ見ぬ明日に向かって、大きな一歩を踏み出して。
これからの未来に不安は抱え切れないくらいある。
でも大丈夫。あたしたちは何度もそうやって別れを経験してきた。
だから、今度は違う場所で、また思い出を作れば良い。
それで、あの時はあんなことがあったね、って一緒に笑い合えたら良い。
その時は、隣にいてくれるでしょ?
また笑ってくれるでしょ?
そう聞いたら瑛太は笑った。
そしてあたしの大好きな声でこう言った。
「当たり前だろ、美音」
【fin.】
