その答えを聞いた瞬間、木芽は部屋の中に入ってきた
僕が築いたレンガをたやすく飛び越えたのだ
今まで約束事を破ったことのなかった木芽の突然の行動に驚いた
木芽はそのままゆっくりと近づき、座っている僕の前にしゃがみこんだ
尻尾のようになっている結んだ黒髪が遅れて落ちる
そして呆気に取られている僕をよそに、木芽は僕の手に自分の手を重ねる
ますます意味が分からず固まっている僕の目を、木芽の黒い瞳が見つめた
思考が上手く回らない頭は、それを綺麗だなと考えている
違う、今考えるのはそれじゃない
「木芽…?」
誰かに触られるなんていうことをだいぶ長い間経験しなかった
そのためだろう、自分の喉から出たのは驚くほど不安そうな声
木芽は僕の瞳を見据えたまま、ゆっくり口を開いた
「悲しいくらい冷たいね。」
体温の話だろうか
僕は唐突なその言葉の意味を考えようとした
「ずっと寂しかったんだね。」
続けられた言葉に、背中がすっと冷えるのを感じた
ぞっとした
男に触られたからとかそういう俗な寒気ではない
見破られたと思った
木芽の透き通った目が、全てを見透かされているようで怖くなった
僕は木芽を突き飛ばし、部屋から走り去った
坊ちゃん、という木芽の呼ぶ声が背中に聞こえたが無視して走った
庭の大分奥まで行き、しゃがみ込む
運動などほとんどしていない体はすぐに酸素を欲した


