扉を開けて


「坊ちゃんはなんで学校に行かないの?」

木芽がそう聞いてきたのは、この日の夜
木芽は僕の部屋のドアの前にあぐらをかいて座っている
部屋に入るなと言った手前、いくらドアを開けられているとはいえ、入ってはいないこの現状を怒ることは出来ない
おすわり、待てをさせているようで、犬みたいだと思う

「行く必要がないから。」

床に座り、本から目を離さずに僕は答えた

「なんで行く必要がないの?」

僕は子供のように質問を重ねてくる木芽に苛立ちながら、答えを重ねた

「勉強なんて一人でも出来るだろ。」

そう言うと木芽は黙り込んだ。何やら考えているらしい

僕はそっと視線を上げ、木芽を見た
口元に手を当て、視線を床に向けている木芽はどこかの俳優のようだ
黙っていればかっこいいだけで済むのに、とぼんやり思った
同性から見ても木芽はかっこいい
ただ、僕からするとうるさいのが欠点なだけ
それでも、その欠点でさえも周りには長所として映るのかもしれない
僕とは別の世界の人間に見えて仕方ない

部屋の入口にレンガでも積み重なっているようだと思った
僕は中、木芽は外
たかが一つの部屋の話なのに、そこには壁があるように見える

ふいに木芽が顔を上げた
そちらを見ていた僕と目が合う

「坊ちゃんは、学校が勉強するだけの場所だと思っているの?」

木芽の問いに息が詰まった
経験はないけれど、本で読んで知っている
一般的に言われる青春とか友情とか、そういうものがあるであろうこと
それに憧れがないと言えば嘘になる。しかしそれを欲しいと思っているわけではない
遠くにあるものへの憧れに近く、自分が手に入れることを望む憧れではなかった

「…そうだよ。」

だからあえて否定した