「…坊ちゃん。」
自室に引き篭った僕に木芽の声が届いた
扉は閉まっており、木芽がどんな表情を浮かべているのかは分からなかった
しかし呼びかけてくる声がやたらオドオドしていて、なんだか可笑しかった
いつも遠慮なしに話しかけてくるくせに、こんな時ばかりおとなしい
「…坊ちゃん、ごめんね。その、話そう話そうとは思っていたけど、タイミングがなくて。坊ちゃんのお母さんに口止めしたくせに、結局自分では言えなかった。…本当にごめん。」
謝る必要ないと思うのに、そう言えない
いつものように部屋には入らず、扉だけ開けて話せばいいのに、そう思うのに言えない
「本当は、ホスピスに入ってそのまま消えるのが嫌でここに来た。俺、自分がそんな所で死にたくなかった。自分のことを知っている人がいる所にいて気を使われて、自分の病気を思い知らされたくなかった。だから俺の病気を知らない坊ちゃんと、坊ちゃんの家を利用しに来た。…本当にごめん。」
そんなこと言わなきゃいいのに、そう思うのに言えない
木芽は正直だ、そう思うのに言えない
「思っていたのに言えなかった。…本当に、ごめ、ん…。」
不意に声がやんだ
僕はゆっくりと扉を開けてみた
案の定、廊下に横になって寝ている木芽がいた
木芽の隣にしゃがみこみ、僕はごめんと呟いた
思っているのに言えなかったのは僕も同じだ
隠し事をしていたのは僕も同じだ
僕は自分のベッドの上から薄いタオルケットを取り、木芽の腹にかけた
そして扉を閉める。今の僕にはこれが限界だった
隠し事をしていました
本当は誰かからの愛を望みました
僕は扉を開けてくれるのを待つばかりで、自分から扉を開けることは出来なかった


