扉を開けて


こちらから母親に電話をしようと思った
木芽が話さないなら母親に聞く
そして今、滅多にしない、僕から母親への電話の呼び出し音を聞いている

不意に音が切れ、もしもしと低めの声が聞こえてきた

「お忙しいところ申し訳ありません。ですが聞きたいことがありまして…。」

「ああ、そうね。そろそろ来ると思っていたから構わないわ。」

僕の声を遮り、母親は流暢に言葉を紡ぎ始めた

「木芽君のことでしょう?木芽は自分で話すって言っていたけど、どうせ話してないのでしょうね。単刀直入に言う。」

心臓の音がうるさい
なんでこんなに動くのか
たかが木芽の状態を聞くだけだろう
病名とか症状の原因とかそういうものだ
木芽が病弱だと、ずっと分かっていたことなのに

「木芽君は夏休みが終わるまでしか生きられない。」

頭が真っ白になるなんて、初めての経験だった
回らない頭を必死に働かせ、質問を紡いだ

「…夏、休みまでしかいないって…。」

そういう意味だったのですか
後半は声として出すことは出来なかった

「だから仲良くしてなさいって言ったじゃない。」

それがこういう意味だと、一体誰が思うのだろうか

「木芽君は、正直言ってよく分からない病気。人より脈拍が速く、寿命が短い。だんだん睡眠時間が伸びてきて、そのうち永遠に起きなくなるそうよ。もちろん死ぬという意味でね。今まで薬でなんとか伸ばしてきたけど、もう限界らしいわ。でもホスピスに行くのは本人が嫌がった。だから本人の了承の下でそこに行かせた、以上。」
一気に言い切った母親の言葉を理解したくないのに、頭に全て残ってしまう

あんなもの、最初からあってもなくても変わらない
初めから意味ない物だから

木芽はその言葉をどんな気持ちで言ったのだろうか。