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「ん…あれ、俺…」
目が覚めると…桜の花は満開だった。
真っ暗な中で、薄いピンク色の花びらだけが、ヒラヒラと宙を舞って落ちて行く。
桜の木を見上げながら、俺はつぶやいた。
「キレーだな、有菜…
―――有菜…?」
はっとして、辺りを見回した。
その時、有菜の姿はもうどこにもなかった。
あれから毎日あの倉庫に行ったけど、また有菜と会う事はなかった。
「おっす仁」
「おー、おはよ!」
あの日から、俺はいつもと同じ生活に戻った。
前とちっとも変わらないはずなのに…
心の中が、どこか悲しくて。どこか寂しくて。
それはきっと、もうあの時みたいに、君が隣にいないから。

![[新連載]君への想い、僕らの距離。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.787/img/book/genre1.png)