俺は顔を上げて、有菜を見つめた。
有菜は俺に背を向け、後ろを向いたまま話し始めた。
「だけど話しかける事なんて出来なくて。
いつもいつも見てるだけで…
――そんな時、あの事件が起こった」
有菜の声は、震えていた。
俺はどうすることも出来ず、ただその場に立ち尽くしたままだった。
「すごくすごく…後悔した。
だから最後に、あなたに気持ちを伝えたくて、いつもここに来てたの。
そしたら、あの日…たまたまあなたと出逢った」
“あたし、有菜っていうの。
あなたは?”
“……仁。”
「本当に嬉しかった。
でもあたしは……所詮幽霊。
想いなんて伝えられない…
そう思って、あたしは“桜の精”なんてウソついた。
信じてもらえるとは、始めから思ってなかったけどね」

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