「………」
黙り込んで返事をしない有菜を見て、俺はだんだんと不安になって来た。
有菜…いなくならないよな…?
大丈夫だよな…?
「……そっか。バレちゃったんだあ…」
「――…え?」
小さな、小さな声。
有菜は、そう言って俺の腕を離した。
「…有菜…?」
有菜は俺の顔を見ずに、下を向いている。
…どういうことだよ?
ギュッと、有菜の服の袖を握った。
「……そうよ。
あたしは、藤本有菜。
あの殺人事件の被害者よ」
そして…そんな俺の願いとは逆に、有菜は顔を上げてこう言ったんだ。
「有…菜…」
「ねえ、知ってた?
あたし、ここで会うずっと前から…仁くんのこと見てたんだよ」
「……え?」

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