女神が涙をこぼした。

人には何が起こったのか理解できなかっただろう。
しかし精霊たちは理解していた。

女神が流した涙の意味。
「憎悪と悲しみじゃ」
闇の精霊が痛ましそうに空を見上げた。
「あのお方は人により悪影響を受けた我らを心配されておる」
「女神さまが悲しまれているのですね」
草の精霊がしおしおと元気なく言った。
「悲しまれておられるだけではない。殺し合う人間を憎まれ、我らを憐れんでくださっておられるのじゃ」
闇の精霊が慰めるように草の精霊を優しくなでた。
「このままで済むはずがないの。しかし我らは見守るしかできぬ」

女神の涙は乾かなかった。
初めての憎悪に女神自身が戸惑っているようだった。
涙は女神の憎悪の象徴。
あらゆる負を撒き散らす。
だが女神もただ見ているだけではない。
火の精霊や風の精霊を遣わし、乾かそうとした。
大地とマグマの精霊に命じて地割れの中に落とそうとした。。
氷の精霊に氷の中に閉じ込めるよう求めた。
何をしても無駄だった。
乾くはずがなかったし、大地の中や氷に閉じ込めることも失敗に終わった。
涙は撒き散らすだけでなく、人間の負も取り込んだのだ。
涙は次第に力を集め、凄まじい力を発揮するようになった。

最初は小さな村がポツポツと消えていった。
そして女神の涙が大きな国を滅ぼしていくのにさほど時間は必要なかった。

精霊たちにはどうすることもできない。
人間が滅びるのは時間の問題だった。