彼の名字は小柳。
この物語において、彼の名前はさして意味があるわけでもないので省略させてもらう。

小柳は困惑していた。
記憶がない。うえに自分が寝ている場所に見覚えがない。

昨夜の深酒のせいで悪い夢でも見ていると思いたい。
残念ながらそう思えないから困惑しているわけだが。

仕方なく小柳は立ち上がった。

「コヤナギ」

ついには幻聴まで聞こえてくる。

「違えよ。幻聴じゃねえよ」

俺はしつこい奴はGより嫌いだ。
あ、Gって台所とかにいる黒くてカサカサ動くあいつね。

「周りくらい見渡せよ。つかほんとは見えてんだろ」

ああ。見えている。
見えてほしくないものが見えている。
あれだ。
これは、幻覚だ。
俺の前で神々しい光に包まれている、頭が螺髪だらけのオッサンは幻覚の違いない。

「幻覚じゃない。いい加減仏がいるって認めなさい」

仏?あれか、俺死んじまったのか。
そうか。俺死んだのか・・・?

「死んだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!?」

俺の大声に驚いたのか、仏の頭から螺髪が1つ落ちた。

「勇者コヤナギ、お前は死んでない。あれだ、ちょっとこの世界のピンチを救いに来ただけだ」

「意味わかんねえよ。どの世界だよ。ピンチはちょっとで救えねえよ。つかそんなこと望んでねえよ」

冷静にツッコミを入れる小柳。

「しょうがないだろ、来ちゃったもんは。最近魔王がね、暴れるんだよ。どうにかしてくれないと困るんだよ」

「できません。自分で何とかしろよ。よその世界の人間を連れてくんな」

「どうにかしてくれないと仏はコヤナギを帰しません。大丈夫。ピンチはチャンスだから」

「この場合ピンチはピンチでしかねえよ。どうせ連れてくんならもうちょっと強そうなの選べよ。俺の特技は電卓の早打ちよ?」

「しょうがないじゃないかぁ」

「何がぁぁぁあ?何がしょうがないの!!?
何?楽しいの?俺を怒らせて楽しいの?」



そういうわけで、彼はこの世界を救うことになった。

こうして小柳の冒険が始まったのである。