アイシング、マイラブソング

祥は来るなり当然の質問をした。


「悠、先に帰ったんじゃねえの?」


「あ…の…」


疑問顔の祥に対し
僕は口をパクパクさせた。


長らく口にすることを禁じていた『千架』の二文字、

言うのに躊躇して

なかなか状況説明が始められなかった。



「なんだぁ?」


「…千架が…」


「え、いたの?」


「うん…」


「しゃべった?」


「目ぇ合った」


「そんだけ?」


「ああ…」



祥はちょっとガッカリしてる。

さっきの帰り際の僕みたいに

何か展開を期待したんだろう。



「…そっちは?酒井にコクられたりして?」


祥は一瞬ためらいながらも言った。



「…酒井は悠が好きなんだよ」



目が点になった。



「俺をひいきにして、悠に冷たくするのもバレないための演技」



さらには開いた口がふさがらない。



「ホントウザかったんだぜ?今年の春頃からしつこく悠のこと聞きまくってきて」



「…女って…すごい」



バカが付くほど素直な僕は感服した。


自分は演技とか計算とかができないから。


今まで僕の中で『元クラスメイト』という肩書きだった酒井だが、

この日『恋の演技派』にランクアップ(?)した。