クラス中の視線がこっちに集まる。

アタシは無言のままにスクバを取り、教室を出る。
教室からは、担任の怒鳴り声が聞こえる。
そして走っているような足音も。



手首を後ろからつかまれる。

振り返ると、転校生がいた。
真剣な眼差しで、アタシを見る。

『姫城さん、ごめん。友達になりたかったから…』


『アタシはあなたと友情ごっこする気はないけど?』と転校生の言葉に被せるように言う。


転校生はしばらく考えて、ゆっくり歩いてきた。


そして一瞬だけど、キスをした。



転校生は、イタズラな笑顔で、
『じゃあ、俺と恋愛ごっこしてよ。』
と首をかしげながら言う。


アタシは呆れた顔で、
『恋愛ごっこも友情ごっこも同じでしょ。アタシ、嫌いなの。感情に流されて、何かやるの。』と言った。


『わかったよ。とりあえず、名前教えてよ。』と転校生は言う。

『姫城由月。』
アタシはそっけなく答える。


『かわいい名前じゃん!じゃあ、由月って呼ぶな?俺のことは、優貴でいいから。』
と転校生は笑う。




『あっそ。じゃあ、アタシ帰るから。転校生は早く教室に戻れば?女子達がお待ちかねだよ。』とアタシは少し笑う。



『なにそれ。由月だって、女子じゃん。』と転校生はいじけた顔で言う。

アタシが女子?なにいってるんだか。

唯一女子らしいのは、長い茶色の髪ぐらい。

ミニスカで、制服着崩しまくって、ピアスまでしてるヤンキーみたいなアタシが女子って、笑っちゃう。

1日に何度もケンカするようなアタシが女子とかどーかしてる。

『転校生はまだ知らないだけ。アタシは女子とは言えないよ。』と笑いながらアタシは言う。



『さっきから、転校生、転校生って!さっき言ったじゃん、優貴だって!それに由月はどっからどう見ても、女子だろ!』と優貴は真剣な眼差しで言う。


アタシは向き直り、早足で階段を降りた。