人が、やって来た。

白いセーター、ロングスカート。

この季節には不釣り合いな、暖かそうな服装。

長い髪を山からの涼しい風になびかせて。

その華奢な女性は汗一つかかず、しゃなりしゃなりと歩く。

その足取りは優雅且つしなやか。

思わず見とれてしまいそうなほどの、気品すら感じさせる歩調だった。

事実一分近く見惚れていると。

「千春、今日も仕事に精を出しておるか?」

その気品ある歩調に似合っているのかいないのか。

女性はそんな時代がかった口調で千春に語りかけた。

「腹が減ったぞ千春!稲荷じゃ!わらわに稲荷寿司を食わせてたもれ!」