「ん、おっけー取ってくる」



天音は立ち上がると、ドレスのすそをわっさと持ち上げて走り、舞台正面の階段を駆け降りた。

講堂中央の、座席の間の通路をそのまま突っ切る。



ふと、後ろの方の席にぽつんと座っている人影に目がとまった。

体調不良を訴えてそこで見学している男子生徒だ。

具合が悪いなら無理して来なくてもいいのに、と天音は思うのだが、彼は自主的に来ているらしい。



「新川くん具合どう、寝てなくて大丈夫?」



近寄って声をかけると、腹部に手を添えてうつむいていた新川が、おもむろに顔を上げた。

さらりと揺れた前髪の下の、暗い色をした目が天音を捉える。



「……さすがに出ないわけにもいかないだろ」

「無理されても困るし。熱ない?」