いきなり背後から声が聞こえて、天音は慌てて振り返った。

熱で重たい頭が、少しくらっとした。



天音に声をかけた子が、天音をやや見下ろすような格好でそこに立っていた。

女子にしては背が高く、顔つきは凛としていて強気な印象を与える。



「ここの席」

「ん? 新川……あんたいきなりどうしたの。新川と喋ったことあった?」

「昨日初めて」

「あ、そう? しっかしいいね、この席。あんまり来ないならちょっと代わって欲しいくらいだわ。あたし一番前なのよ一番前!」



彼女は「藤崎」と書かれた枠を指差した。

彼女――藤崎七海の席は、透夜とは正反対、廊下側の最前列だ。

ちなみに七海は、学園祭用の劇の台本・演出を担当し、現場を指揮していた張本人だ。



家が近く、天音と七海は幼少期からよく一緒に遊んでいた。

いつも傍にいて、天音の面倒をしっかり見てくれていた七海は、やはり大事なことに気づいてくれる。

こんなふうに。



「……天音、あんた熱ある?」

「あ。わかる? あはー」

「あはーじゃない。寝てなさいコラ」

「微熱くらい別に! 授業わかんなくなるし」

「そんなの久遠が後で教えてくれるでしょ! ちょっと久遠! くおーん!」