天音は、体中に熱が走ったのを感じた。



皮膚の上を這う紋様が、少しずつ引いていく。

顔から首筋へ、鎖骨へ、それから服の下を通って腕へ、と初めのルートを逆へ辿り、模様が消える。

透夜の体からも、徐々に赤いいばらは消えていった。



最後に、紋様は左手首の周りに絡みついた一筋だけになった。



「これ、完了かな」

「だろうな……残ったな」

「契約の印みたいなんかな。刻印かな。なんか物語の世界みたい」



でも物語でもなんでもなくて、この印は、天音が透夜と繋がっていることの証なのだ。

実感はまだ湧いてこない。



「……鈴原、下の名前、何?」

「天音」

「……天音」



透夜は穏やかな声で、天音の名前を呼んだ。

なあに、と答えると、透夜は自分の腕時計を外して、天音の左手首に、少しきつめにそれを巻き付けた。



「それなら隠せるだろ。練習、戻れ」

「うん、ありがと」

「……こちらこそ、」



その続きは良く聞こえなかったが、訊き返す前に透夜は立ち上がって、さっさと演劇倉庫から出て行ってしまった。



重たくてかっちりした、男性用の腕時計。

ちょっと触ってみて微笑むと、天音は再び、役のお姫様の顔に戻っていた。