人に触れてはいけない、とはどういう生活なのかと天音は考える。

男女差こそあれ、人はいろいろな場面で他人と接触する。

自分から触れたり、先程のように思いがけず当たったり。

それを避けて生きるということは、想像よりも遥かに難しいことなのではないか。


誰かの体温が、力になることだってある。

それを受けられないのは、苦しいことかもしれない。



「……誰か来る」



講堂内部の気配を察知した新川が、鋭く言った。



一瞬後には、天音はまた抱えられていた。

天音が混乱している間に、新川は素早く動き、そのまま天音をどこか狭い場所に連れ込んだ。

遅れて現在地を認識した。


女子トイレだ。



「天音? いるのか!?」



非難の目を新川に向けた時、遠くから久遠の声が聞こえてきた。

返事をするかしないか、悩む。



「返事しろ、近づけるな」



新川が天音の耳元で囁いた直後、天音は体調不良者になりきっていた。