「ちょっと、おにーさんっ!」

後ろから急にマフラーを引っ張られ、既に一歩踏み出した足が着地点を見付けられずに宙に止まった。

「げほっ」

首はさほど苦しくなかったのに、驚きで息を呑んだ俺の喉からは大袈裟なほどの噎せた咳。


「あ…、ごめんなさい、大丈夫です?おにーさん速足だから、つい…」

眼下にきょとんと見上げる女の…子?
気の所為か、少し息を切らしていた。


「あぁ、ごめん。大丈夫。」
口についた言葉は、何故か謝罪だった。


俺…、なんで謝ってんだ?

「…なんで謝ってるんです?」

女の子は、俺が思ったのと同じタイミングで言葉を発すると、化粧っ気の薄い顔の、唯一目を引く朱いくちびるが三日月のように弧を描いた。


童顔なのか、女の子って表現していいのか微妙なラインだけど、どうやら未成年ではなさそうな落ち着いた声。

控えめに、クスクスと笑う。
人懐こいのがわかる表情の崩し方だった。