「…兄貴…?
てゆーか、何だよコレ?!」


振り返った兄貴は、逆光に照らされながら悲しそうに少しだけ口元を上げた。


瞬間、得体の知れない不安感ばかりが俺を包み込んで。



『…俺、日本を離れようと思うんだ。』


「―――ッ!」


“嘘だろ!?”って。


言葉が出なかった。


あれほど願っていたことなのに。


なのにいざ現実にして突き付けられると、ただ体が震えて。


目標で、その背中が目の前にあるから俺は、安心していたのに。



「何言ってんだよ?!
バッカじゃねぇの?!
っざけんなよ!!」


その胸ぐらに掴みかかり、激しく揺さぶった。


なのに、兄貴の表情は変わらなくて。



『…本当は、弘樹だってずっと思ってたろ?
俺が居ない方が良い、って。』


「―――ッ!」


その瞬間、気付いたら兄貴を殴り飛ばしていた。


鈍い音が響き、その拍子に机の上にあったものが床に散らばって。


倒れ込んだ兄貴は、口元を押さえながらゆっくりと体を起こす。



「…何で殴り返さないんだよ…!
いっつもいっつも、何で俺の全部を受け入れるんだよ?!」


ただ、悔しくて。


初めて人を殴った右手が、今更になって疼きだした。


ズキズキと痛みが、俺の心の中にまでダイレクトに響く。


焦燥感ばかりが俺を支配し、酷くこの胸を締め付けて。