『…とにかく、美緒や親達には何も言うなよ。』


「…わかってるよ…」



こんなこと、言えるわけがないんだ。



“俺だって知ってるから、これからは俺が美緒を守ってやるよ”


そんな台詞は結局、どんなに足掻いたって兄貴の二番煎じで終わるから。


いつもいつも、俺は兄貴には勝てないんだから。



兄貴はゆっくりと立ち上がった。


そして俺の肩を二度叩いて。



「待てよ!
どこ行くんだよ?!」


『…ちょっと、な。』


瞬間、その背中に向かって声を荒げた。



「逃げんじゃねぇよ!!」


『…悪ぃな。
頼んだぞ、弘樹。』


そう漏らした兄貴の背中が、何故か小さく見えて。


それ以上俺は、何も言うことが出来なかったんだ。



いつの間にか真っ暗闇に包まれた部屋は、そのまま俺の心の中みたいで。


静かすぎる部屋に、俺だけが佇む。



“頼んだぞ、弘樹”


まるで、美緒を俺に託すような言い方。


兄貴のものを、俺に託すような言い方。


そんなことに、息苦しくなって。


未だに俺たちは、こんなアンバランスな関係を保ち続けていて。


俺が抜ければ、もぉ終わるのかな。


こんなのもぉ、耐えられねぇよ。