差し込む西日に、目を覚ました。


静かすぎるほどの、俺だけの空間。


リビングからも、物音のひとつさえも聞こえてはこなくて。


代わりに、笑いが込み上げてきた。


まるで同じ写真を何枚も見せられるようだった、変わりないだけの日々。


だけど、そのどれもが微妙に変化していて。


確実に俺と美緒の距離は遠くなり、代わりに近くなった兄貴と美緒の距離。


もっと早く気付いていれば、どうにか出来ただろうか?




瞬間、バタバタとリビングから足音が聞こえて。


―ガチャッ

『大変よ、弘樹!!』


「―――ッ!」


血相を変えた美緒が、俺の部屋のドアを開けた。



「えっ、何?」


『…タカちゃんが…タカちゃんが…!』


そこまで言い美緒は、言葉を詰まらせた。


小さな肩が、微かに震えていて。


訳もわからぬ不安が、俺を一瞬にして包み込んだ。



「落ち着けよ、美緒!!
兄貴がどーしたんだよ?!」


『…“当分帰らない”ってメールが来て…』



たった、それだけのことだった。


なのにそれだけで、こんなにも美緒を揺さぶるんだ。


俺の家だってのに、俺じゃなくて美緒にメール、か。


じゃあ、俺って一体、何なんだろう。


兄貴のことで泣く美緒なんか、俺にはどうすることも出来ないってのに。