『…美緒はさぁ。
ガキの頃にした俺との約束を、未だに引きずってんだよ。
いい加減、目ぇ覚まさせてやれよ、弘樹。』


「―――ッ!」



“それは、子供の頃の話だろ?!”


あの日の喧嘩の内容だろうか。


どっちにしても、俺の知らない話だ。



「ハッ!相変わらず仲良しだな。
邪魔なの、俺の方なんじゃねぇの?」



俺の世界を土足で踏み荒らす、兄貴の存在。


憎くて憎くて、堪らないんだ。



「…何の約束なのか知らねぇけど、面倒くさくなったからって俺に押し付けるなよ!
“好きじゃないから迷惑だ”って、ハッキリ言ってやれば良いだろ?!」


『―――ッ!』



そうすれば、やっと美緒は兄貴から解放されるのに。


だけど兄貴は、言葉を詰まらせて。



『…美緒はただ、兄弟愛と勘違いしてるだけなんだよ。』


“だから”と言って再び俺に視線を戻した兄貴の顔は、酷く悲しげだった。



『…だから、弘樹がちゃんと教えてやれ。』


「―――ッ!」


そう言って兄貴は、静かに部屋を出た。


敗北感ばかりが、俺を支配して。


何故あんなにも悲しげで、そして俺以上に苦しそうなんだろう。


あんな兄貴、初めて見た。


知らない顔と、知らない約束。


兄貴は俺に、何を隠してるんだろう。


ただモヤモヤと、そんなことばかりが頭を巡る。