まだ夢とも現実とも区別がつかない中で、家路に足を進める。


朝もやはそのまま、俺の脳みその中みたいで。


ツンとした空気に似つかわしくない、俺の存在。



―ガチャッ…

やっと家に辿り着き、靴を脱ぎ捨てた。



『…弘樹、朝帰りか?』


「―――ッ!」


コーヒーを口に含みながら、兄貴は俺に言葉を投げた。


おおよそ、麗らかな朝とは似つかわしくない光景。



「兄貴に言われたくねぇから。」


それだけ言い、冷蔵庫まで行ってミネラルウォーターを取り出した。


会いたくないと思う時ばかり、何で家に居るのだろう。



『…香水と煙草の匂い。
美緒に何か言われる前に、風呂入って着替えとけよ。』


「―――ッ!」


瞬間、唇を噛み締めた。


誰の所為で俺が、こんなことを繰り返してると思ってるんだろう。



「俺が美緒にどう思われようと、兄貴には関係ねぇだろ?!」


『…でも、好きなんだろ?美緒のこと。』


「―――ッ!」



兄貴さえ居なければ、こんなに苦しまずに済んだのに。


こんな男に、無神経に言われたくない。



「ハッ!そんなわけねぇだろ?」


振り返り、俺を見据えるその真剣な瞳を睨みつけた。


数秒なのか、数十秒なのか。


ため息を混じらせながら先に目を逸らしたのは、兄貴の方だった。