「でもね、やっぱり奏には心の底から笑ってほしいの。
まだ何もしていないのなら、大切に思うものを諦めてほしくないの。

こんなの我儘だってわかってる。

だけど……だけどね、あたしは奏のこと好きだから、奏には自分の気持ちに正直になって、笑ってほしいって思っちゃうの」



きっと、彩乃は全部気付いてる。



あたしが諦めてるモノが、頼城先生だけじゃないんだって……



あたし、こんなに心配させてたんだ……――――



自分が我慢すれば

周りはみんな“普通でいること”を喜んでくれると思ってた。



でも、勘違いだったのかな?



あたしはたぶん、話さなくちゃいけない。



今、ここで、彩乃に――――



あたしの願いを聞いて

弱さを聞いて

ずるさを聞いて

彩乃はあたしを軽蔑するかもしれない。



そう思うと、やっぱり恐い。



でも、自分の思いを素直に話してくれた彩乃に

あたしも誠意を見せたくなった。



「今から、話すよ。……全部。でも、長いから朝までかかっちゃうかもしれないよ?」


「上等よ!」



笑いながらそう言うと、彩乃は微笑み返してくれた。


大丈夫……――――


そう心の中で囁いてから、あたしはゆっくり語りだした。