となりのイスを引いて座ったさゆみちゃんが、あたしの顔を覗き込んだ。



「つ、付き合ってないよっ! ただ、勝手に憧れてただけ!」


「そうなんだぁ……。でも、さっきの歌って高校の文化祭で歌ったんだよね?

その人から何も言われなかったの?」


「うーん……特には。文化祭がきっかけで仲良くなれた気はするけど」


「なんだぁ、ちょっと残念」



そう言いながら、さゆみちゃんはイスに背を持たれ掛けさせた。



つまらなさそうに膨れてるけど、そんな姿まで可愛らしいって……どういうこと?



ぼーっとさゆみちゃんを見ていると、彼女は不思議そうにあたしを見た。



「そういえばね、このオーディション、お兄ちゃんが勝手に私のことを応募したの!奏ちゃんも他薦だったんだよね?」


「うん」


「誰が応募したの? やっぱり家族?」


「あー……わからないの、それが。相手が匿名でってお願いしてるから、明かせないって」



あたしは、電話で説明されたことを思い出しながら答えた。



でも、本当に誰が応募したんだろう?



いくら考えても、やっぱりその答えはわからない。



「そんなこともあるんだぁ。でも、その人、よっぽど奏ちゃんのこと大切に考えてたんだね!」


「え?」



びっくりして見ると、さゆみちゃんがぐいっとあたしに顔を近づけた。